平安神楽〜鶯〜

春偲ばれ、人々は肩を竦めて道を行く。時雨が運んだのは冬の寒さと、一つの噂ーーー

桜も散り落ちて、丸裸になった身体を細い枝で隠そうとするのが、また哀れである。



ここ数日、全国各地どこも時雨ていた。



晩秋から初冬にかけて断続的に降る小雨は、雪も含んで一層冷たいのだ。
春にはのんびりと足を止め、美しい桜を用もなく眺めていく旅人も、この時期は皆俯いて足を速めた。





神楽にとってはどうでもよい事である。



長い長い旅路の前には花も時雨も同時に降っているようで、はかなくて一瞬だった。



日に日に四季巡りが速くなる気がし、そういう時こそは足を止め、物思いに耽ったりした。



時雨が、やがて本格的な雨に変わった。



ずぶ濡れになりながら、村に設けられた寺に入って宿を借りる。


境内や軒下に沢山村人がたかっていた。
その中に紛れ込み、欄干に少しもたれかかり、一息ついた。



普段静かな境内が大勢の人でガヤガヤとし、僧頭が飛び出して来て、皆に熱い茶を配って回る。



「ありがとう…」



受け取り、息で吹いた湯気が跳ね返って温かかった。椀の下に掌を差し入れ、熱を身体に取り入れようとする。



「ひでえ雨だな」



隣に立っていた商人二人が無駄話を始める。
雨が止むまでの一時の輩だ。
止めば、また別々の道へ散って、次に会うのはいつとも知れない、人生の重ね合いだ。




何とは無しに聞いていると、二人はこんな話を始めた。




「お前さんどこ行くの?」




「常陸だよ。あそこの国守さんが今度都に上られるので、祝いの反物を買い入れたいってね」



常陸なら、ちょっと前に通ったなあ…と、ぼんやりと思い出す。



「あそこの国守さん。奥さんに死なれて一人だろ?都で可愛いの見つかるといいねえ」



「そうそう。何でも前の国守の一人娘を貰う約束だったのに、ウンともスンとも便りが無いから、行ってみたら屋敷は無人だって言うじゃないの」



おや?
不思議に思って、二人をまじまじと覗いた。



それなのに、二人はさもそれが当たり前のように、「ああ、そうそう」などと言っている。

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