平安桜

最後!

「私はね」

急にくつろいで全員思い思いに腰掛け始めた。
四納は何気ない風に軽い口調で、時に手ぶりも交えながら話し始めた。

「昔から変なところに神経質でしてね、親にも子供の癖にお前は理屈っぽいと叱られましたよ」

葉奥が頷いた。

「わかるぜ、親の気持ちが。お前“りくつ”っぽいもんな」

尚太女は始め座談会を始めた四納達を羨ましそうに眺めていたが、葉奥がわざとらしく大きな声で言った一言に表情を変える。

「りくつ!」

「つり!」

尚鷹の言葉のストックはまだまだあった。
また“り”だ。
狐黄はため息を付いて首を振った。

「四納さんは別だけどあたしそういう人基本的に苦手かも。人の台詞の揚げ足取ったりするじゃない?理解に苦しむわー」

「俺もちょっと“りかい”出来ないなあ〜」

「りかい!」

尚太女はちゃんと言葉を拾って尚鷹に投げた。 答えるのが早くなったので、尚鷹は少し目を見開いて驚いた。

「いか!」
「おっとすまぬ」

小梅の君が膝で立って狐黄の頭に触った。

「簪がいがんでおったのじゃ、簪が」

「あ、本当?この“かんざし”お気に入りなの!」

「よくお似合いですよ」
白々しい会話をする狐黄と小梅の君に、四納も茶番の笑顔を添えた。

「かんざし!」

「しり」

尚鷹はどうやら“り”攻めにしたいようだった。 しりとりの世界ではこれも定石である。

ここは四納達の演技力と知識にかかっている。

「簪ってすぐ折れちゃいそうですよね」

行脚がさも自然に会話のネタが変わった風を装う。
月姫が笑いながら葉奥をつついた。

「葉奥壊したらあきまへんえ〜、壊したら弁償で、利子ついて狐黄と結婚して貰わなあかん」

「何で“りし”付いて結婚なんだよ!」

「いやあ〜めでたい!実にめでたい話だなあ〜!」

ちらりと盗み見すると、尚太女は眉を寄せて食い入るように四納達を見ていた。
四納は視線を反らす。
会話がいつも通り過ぎてわからなかったろうか、とは言えあまり目を合わせる訳にはいかない。

「ねえ…りし、ねえ…」
と独り言のように今一度呟くのが精一杯だった。

「よそ見をするな!」

尚太女は久しぶりに殴られ、綺麗に回転したが、すぐに起き上がり、

「りく」

はっきり言った。 何気ない霊媒の話に移行していた四納達は喋りながら驚いていた。どうやらどう考えてもヒントが見出だせず、自分で考えたようなのだ。


「くり!」

結局また“り”で返され、困窮する羽目になるのはなるのだが。

もう一度利子の話を持ち出すのも変なので、仕方なく四納らは別の言葉を探す。

「俺さあ〜」

フリーの霊媒師の旅の楽しさや苦労を語っていた涙が腕を組み、身体を柵に預けて太い息を吐いた。

「霊媒にかけては今更引け目も恐れも無いけれど、料理だけはいかんね!料理は必ず失敗するんだなあ〜!だから美味いものを食いたいと思えば大枚をはたくか、料理の上手なお嫁さんが欲しいよね!」

「わらわも!いつも家来がしてくれるので何とも思っておらなんだが、料理は女の嗜みじゃ!きっと出来て当たり前のものじゃ!わらわも料理作れるようになりたいのじゃ〜」

先程失敗したので涙と小梅の君はいつもより余計に連呼した。
料理料理と騒げば誰でも気付く。

尚太女はしっかり頷いて、格好良く胸を反らせて「りょうり!」と叫んだ。

尚鷹が鼻で笑う気配がする。

「りんかい(臨界)」

「馬鹿め!」

尚鷹が答えると同時に尚太女が覆いかぶさるがごとく叫んだ。

「りんかいなどという言葉は存在せぬ!お主は気でも狂ったのか!」

「お前こそ気が狂ったのではないか!臨界という言葉は存在する!」

「何いぃ!?この陰の指摘に動揺すらしない…と!?りんかい…い…い…」

四納は額を押さえて呻いた。

「尚太女さん!真面目にやって下さい!このしりとりには、あなたや私達のこれからがかかっているんですから!」

「無論だ。だからはようヒント出せ」

「わっ…馬鹿…」

葉奥は小さく叫び、次いで諦めたように目を伏せた。
「ヒント」?

尚矢が眉を寄せ、恒例の四納の首に苦無を寄せて来た。

「貴様らはヒントを与えていたのか」

「まさか」

と答える四納の目は餌を見失った金魚の如く、ばたついた。

「ヒントを与えていたなら尚矢さん、あんたが気付く筈じゃないか。俺ら何か怪しいところがあったかね?」

阿るような涙の目に、尚矢はしばらく考え込み、すいと苦無を引っ込めた。
冷静を装っているが、「普通の会話だったよなあ」という表情が見て取れた。

「と言う事は、作戦は上手く行ってたって事ですよね」

示結が嘆息と共にへたりこむ。 四納も残念そうに首を振った。

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