平安桜

肥太女〜巳太女。

「…と、言う訳でですね、肥太女さんには是非協力して頂きたいんですよ」

四納は長々と語り出した話にようやく句切をつける事が出来た。

尚太女が創設した月影忍法は遊びの延長のようなものである事、この通り連れて来られた仲間はか弱い霊媒師ばかりである事を、とくとくと説明したのだ。
肥太女は腕を組み、そのいちいちに頷きながら聞いていた。

話のわかりそうな兄だった、さすが仲が良かっただけの事はある。 そこを攻めない手は無い、四納は今一歩膝を進めた。

「尚鷹さんは尚太女さんが凄い忍者か何かになったと勘違いしているのではないでしょうか?是非誤解を解いて下さい、無理なら私たち自身が行きますので攻撃をやめさせて下さいお願いします」

しかし、 四納の土下座級の頼みにも肥太女は重々しく首を横に振った。

「そんなおおっぴらに味方する訳にはいかん、我々は既に尚鷹から不法侵入者が現れたら手厚くもてなすように言われているし、忍の掟上敵の味方は抜け忍とみなされてしまうのだ」

厳しい世界だった。

「お前も抜け忍なのかよ」

黙って聞いていた葉奥がぼそりと尚太女に聞いた。
尚太女は胸を反らせて大威張りで、

「違うぞ!陰は兄弟の中で唯一家督を継ぐ権利を放棄された抜かれ忍なのだ!」

「自慢になりませんよ…」

行脚が嫌そうに首を振ったが、尚太女は得意そうだった。 やり取りを見て、肥太女も頷く。

「うん、こやつはもう出入り自由の身でただ一人忍の掟に縛られなくていい存在なのだ。だから、尚鷹のしている事もまあーそう躾程度ではないかな?と、拙者は思うが」

「躾で手裏剣飛ばされちゃ敵わないねえ〜!あっははははは!」

涙は笑ったが何も面白くなかった。
その後ろでは示結と月姫が内緒話などを始めている。

「なあ、尚太女何で抜かれはったと思う?」

「そりゃあ…あれじゃないですか?やっぱり出来が悪くて…うぷぷっ!」

「やっぱり?うちも思たえ〜〜〜〜〜!」

「これ!本人を前におやめなさい!…尚太女さん、ビシッと言っておやりなさい、出来が悪かったから抜かれたのではないと!」

「お主何故わかった!?」

「ああ…」

四納はがっくりと首を垂れた。 いらぬ墓穴を掘ってしまった、今や尚太女は遠慮なく示結と月姫に笑われている。


「何とか目立たない方法でお助けして貰えないですかね?」

行脚がねばりを見せるも肥太女は難しい顔で首をひねるばかりである。

尚太女も痺れを切らして兄の背中を叩いた。
「おい肥太女、主はいつからそんなケチになったのだ、陰の為ではないか」

「出来んものは出来ん、主は昔から無茶苦茶ばかり言う」

「可愛い弟が兄に殺されてもいいと言うのか」

「拙者も命は惜しいわい、任務ならともかくお前の為に命を捨てるのはさすがに納得出来ん」

「おい、その言い草酷いではないか」

「可哀相だが忍とはそういうものなのだ」

「ちょ、ちょっと」

四納は慌てて膝で立ち上がって二人を手で制した。

「喧嘩はやめて下さい、それが忍の掟だと言うなら仕方のない事ですから」

「四納は肥太女の味方をするのか」

まだ口答えを続ける尚太女を、涙がまあまあと抑えた。
肥太女は腕を組み、情けない様子の弟をちらりと見遣り、覆面の下からふうと息を吐いた。

「…では、あるが。ここで主らに会ったのも何かの縁かもしれぬ」

その台詞が終わるか終わらないかのうちに、示結がひょーと歓喜の声を上げて飛び上がった。

「やりい!助けてくれるんですね!」

「先走るんじゃねえ!」 葉奥が途端に肘鉄を喰らわせて黙らせる。

同情の余地も無い、お調子者はこれだから困る。 月姫でさえ小さく、「アホちゃう…」と呟いていたのは誰にも秘密である。

肥太女はそんなやり取りなんかどうでも良かったのか、うんと頷いて淡々と話を進める。
「拙者が道案内をしよう」

「え?でもそれをすると怒られちゃうんでしょ?」

狐黄が首を傾げる。
肥太女はまた頷いてから、ただしと人差し指を立ててみせた。

「意識的にやればな、拙者が屋敷を見回っている時に主らがこっそりつけて来た…こういう筋書はどうかな?」

「なるほど!そりゃあいいねえ!」

余程感銘を受けたのか、涙は膝を打って喜んだ。 そして更に詰め寄った。
「俺らも出来る範囲の反撃はしていいんだよねえ?」

「それは勿論、ようござる」

それならと涙は四納にしなだれかかり、その肩を引き寄せた。

「うわっ!何ですか涙さん!」

「四納!これはいけるよ!俺達の持てるだけの力でここを乗り切ろうじゃないの!」

「そ、そんなに上手くいきますか…」

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