平安桜~春明暁を覚える~

道長の要請を受け、大和の霊媒師派遣事務所から派遣されてきた二十歳の若者・春明。初日からお屋敷には憎いあん畜生が……。

 いまや権勢並ぶ者なしと言わしめる男、関白・藤原道長。彼の全身からあふれ出る活気は行き場を求め、邸宅の隅々までも染みこんでいるようだ。客人、商人、馬の世話係などがひっきりなしに出入りする門扉の前にぼうっと佇み、春明はいつまでも人々を眺めていた。

「誰だ」

 そうこうしているうちに声をかけられる。実はこれを待っていたと言っても過言ではない。こちらから話しかけるのは気が引けるくらい、皆忙しなくしていたからだ。春明は姿勢を正し、声をかけてくれた馬の手綱を引く男に挨拶した。

「荻 春明(おぎ・はるあきら)と申します。本日づけで道長様の霊媒師として、派遣されて参りました」

「派遣? どこから」

「ここに」懐から紹介状を取り出す。春明の師匠である千家藤芳(せんげ・ふじよし)は、大和で霊媒師の派遣業務を行っている。春明も藤芳の元で学び、正式に八法術師となってから、派遣霊媒師として登録されていた。
 正直派遣霊媒師の存在がどの程度まで認知されているのか怪しいものだと思っていたが、この度めでたく道長から依頼が来たというわけだ。

 紹介状をちらちら見てから、男は感心したように唇をすぼめて、「ご苦労なことでございます」と春明をねぎらった。続けて「では、四納殿のところへご案内すればよろしいな」と窺う。四納なる名を春明は知らない。愛想笑いのまま固まっていると、「こちらです」と相手は促した。

「浜坂四納(はまさか・しのう)殿、陣内葉奥(じんない・はおう)殿は、道長様の専属霊媒師として邸に住んでおいでです」

 長い道のりの最中、男が土御門を守る霊媒師2人について教えてくれる。ひとりは春明と同じ二十歳の八法術師、もうひとりは十八になったばかりの霊魂武皇だそうだ。

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