ちょこっと平安桜

平安時代の霊媒師達が、藤原家廊下にて再就職の話。

春うららかな、暖かい昼下がり。


浜坂四納は紫式部と並んでこの上なく旨い茶をすすり、菓子を食べ、他愛もない世間話などしながらくつろいでいた。

プー太郎をしている訳では無い。 ここは皆さんもご存知、

「この世をば わが世とぞ思ふ望月の 欠けたることも なしと思へば」

で有名な藤原道長の屋敷である。 四納はれっきとした専属霊媒師で、八法術師(はっぽうじゅっし)の称号を持っている。

霊力と称号のレベルは中の中だがそれでも6歳から高名な師匠の元で勉強した、遺憾無くその才能と実力を発揮し活躍している。

ただ、霊がいないと暇になる。

四納は式部とこうしてものの哀れなどを語り合いながら、静かな時を過ごすのが楽しみになっていた。

将来は彼女のような知己を持った女性と一緒になり、騒がしい世間からは一歩離れて二人で花や蝶よと戯れを言い合いたいという夢をーーーーーーーーーー。

「よう四納、いるか」

騒がしい足音と早口で同僚の陣内葉奥が入ってきた。
四納はのどかな時が終わったのを感じた。
いつもだ、いつもこうして邪魔される。

自分だけの高尚な一時、散る桜を愛でながらものの哀れを語る時間が好きだと、これほど言っているのに葉奥は何故わかってくれないのだろうか。

四納は悲しくなって目を伏せた。

「あらあ〜葉奥君じゃないのお〜いらっしゃい☆」

紫式部はおっとりと葉奥の為に座を空けた。 こうした式部の葉奥を受け入れている体制も若干四納を物悲しくさせる。

どうせ、どうせ自分だけなのだ。 和やかなあの時間に還りたいと思っているのは自分、一人だけ。

「寝たんじゃねえだろうな」

葉奥は四納の目の前でぱんっと手を叩いてみせた。
四納はうつろに面をあげる。

「起きてますよ…何か用ですか葉奥君」

「用という程でもねえけどよ」

葉奥は四納の悲しげな様子には目もくれず、そこにあぐらをかいて話し始めた。
横柄な物の言い方をしているが彼はまだ18歳で、四納より二年遅れて藤原家専属霊媒師として遠い遠い常陸からやって来た。

霊魂武皇(れいこんぶのう)、という非常にごつ臭い名前の称号を持っており、その名の通り背中に差した愛刀で妖怪をバッタバッタと切り捨てるチャンバラ霊媒師なのだ。

普段から四納をライバル視して功を競おうとするもののそれ以前に真面目な為普通に仕事をし、普通に喋りに来る。
今じゃすっかりいい相棒、頼れる同僚になっていた。
と、四納は思っているが葉奥はどうだか知らない。 同じ事を思っていてくれるとありがたい。

「もしもの話だぜ」

葉奥は前置きして、少し声を低くした。

「なんです?」
葉奥にしては珍しい、内緒話だろうか。
四納は自身も自然と前かがみになった。
葉奥はなおも一拍おいて、それから言った。
「もし俺とおめえがクビを切られるとしたらどっちだと思う?」

訳がわからなかった。
「は…、?」

四納は詳しい説明をして欲しい事をひたすらに目で訴える。
葉奥は腕を組んだ。
「いやな、この藤原の家だって今じゃ並ぶものもない権勢だけどやっぱり不景気には敵わねえと思うんだよ。それでいざ霊媒師を減らそうって思った時に選ばれるのは俺とお前、どっちかなって」

「うーん、そうですね」
ようやく意味がわかって相槌は打ったが、葉奥が何故突然そんな話をしだしたのかはまだわからなかった。

「でもまた何故ですか?今不景気になりそうなんですか?」

「違う違う、あたしたち見ちゃったのよ四納さん」

葉奥に代わって勢いよく話し出したのは実はずっと後ろにくっついていた狐黄。

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